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【ネタバレあり】「百合文芸小説コンテスト」受賞作全部読んで百合を完全に理解した(してない)

コミック百合姫×pixiv百合文芸小説コンテスト」という催しがありました。

一応Pixivで駄文をボロボロ書き殴っていて他の媒体には手を出していない(カクヨムはアカウントだけある状態。)ので主戦場はpixivってことになるのですが、通知を切っているので投稿する時しか基本見ません。

そもそもpixivは絵を載せるサービスが主体なので小説媒体は元々リアクションをいただくことはほぼありません。おそらくぼくの小説は多分コメント貰ったことないんじゃないかな?ブクマとかは多少あるみたいだけど。
そういう訳でファイル共有ツールとしてしか使ってなかったわけです。

 

しかし今年の初めにまず初期微動的な衝撃がありました。懐かしいですね、毎年話題に挙がるセンター国語のネタです。古文の問題に抜擢されたのは「玉水物語」でした。

 

玉水物語を読んで百合やべえなで始まる2019

玉水物語は超ざっくり書くと姫君に一目惚れした一匹の野狐が、姫の傍に居たいと願い人間に化け、人間の子供として育てられた後に宮中に出され、姫君と再会し一緒に互いに無二の存在として過ごします。
この物語の珍しい所は野狐が化けたのは男ではなく女というところ。(明言されていないが狐はオスと解釈されている。よって男の娘という解釈もできるが脱線するのでここまでにしておく。)

狐は玉水の前という名前を貰い、意中の姫君に仕え、物の怪に憑かれた時は怨霊を説き伏せ、紅葉狩りの競争には兄弟狐にお願いして綺麗な紅葉を手に入れて姫君を勝たせたりと微笑ましくも睦まじいやりとりが描かれています。

そして姫もまた玉水の前を大変に寵愛しており、昼夜傍に玉水の前を仕えさせるだけでなく、(元が狐なので)犬を怖がる玉水の前のために宮中を犬禁止にしたり。愛です。

ただ、この物語は最後は別れで終わります。玉水の前が獣の出であることを告白することも出来ないし、このままずっとお仕えすることもできないと儚み、宮中の動乱に乗じて不意に姿を消します。直前に玉水の前が姫に箱を送り、玉水の前が消えた後姫が箱を空けると玉水の前の正体と姫の幸せを願う宝物が入っている。それを見て姫は玉水の前の一途さに心打たれる所で終わります。

平民と姫君という身分どころか狐と人間の種族すら超えた関係性。そんでもってNLにありがちな肉体的などうこうな描写は何もなく、ただただ、二人の思い出が重なっていくストーリー。ハンパない衝撃を受けました。これを600年前に書いたご先祖様スバラしすぎます。大感謝です。

そんでもって、百合大賞

玉水物語の衝撃で百合……ええやん……になってしまいましたがウルトラ初心者もいいとこでそれ以降特に動きがありませんでした。そんな時に百合対象です。確かTwitterの文芸沼の人が、Pixivで百合文芸コンテストがあり、結果発表が云々ってことを言っていたのを見かけたんだと記憶してます。普段は流しちゃうのですが、その情報には受賞作複数が載った作品が無料で配布されるということが含まれていました。ドケチなぼくは無料配布の言葉に弱い上、ちょっと興味を持ち始めた百合分野の短編をバカスカ摂取できるというのならこんな良いことないじゃんと思い即GETしました。

これが表紙です。爽やかじゃねーか……

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この厚さでタダはすごすぎ

 

ぼくは結構短編集それも複数作家が揃うアンソロジーものが結構好きで、理由はCDジャケ買いする人同様にいろんな作家のいろんな文が読めるからです。その中で良いものがあれば繰り返し読むし、いいものが無かったら「誰だこの企画立てた奴は!!!」と怒り狂いながらブックオフに向かうゾ。

で作品一つひとつについて触れることはしませんが、どれも素晴らしい作品でした。ジャンルも良くある高校生同士から、社会人と学生、中学生同士、姉妹、はたまたオカルトチックな獣憑やファンタジーな異種族間までかなり守備範囲が広かったです。話も青春モノからギャグ、ミステリーまで。選考過程はわかりませんが、幅広い設定の作品が書かれているというよりも設定レベルでは被りのない作品が選ばれたんじゃないかなって印象を受けました。普通に考えれば学生青春ぽい作品がパイの殆どを占めていると思いますし。

勿論内容はすべてオリジナルというところも良い。二次創作ばっかりやってますけど、やっぱり一次創作に力量が現れると思うんですよ。特に書き始めで、初手からセリフ打っておけばキャラクターと情景が自動的に浮かぶ二次創作と違って、場所と時間と主人公の外見と内面を説明しつつ作品に読者を引きずり込まなきゃならない一次小説はキャラクターの造形から内面まで設定をし、背景の場所・時間帯まで、そしてそれらを効果的な文学的装飾で彩ったうえで説明している。これは芸術というよりも職人的技術が依り合わさったものに感じており、どの作品もいかに最初の一行から読者を取り込むかを意識して書かれたものであった。

 

そして作品について。どれも素晴らしいものだった。勿論好みはあるのだけれど、読者を引き込むような仕掛けや共感するような場面の展開などなど、底辺アマチュア字書き(もうずいぶん書いてないので字書きを名乗るのも烏滸がましい)のぼくは感心しっぱなしであった。

特に印象に残っているものは2つ。

 

ひとつは「りん」氏の「夜が明ける」。

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まず設定が特殊も特殊で、百合なのか?と言われると百合ではないのかもしれない。なんで百合じゃないと思うのか?そもそも百合ってなんだ?そんなことを考えさせられた。

少なくとも、この物語には生物学上女性がふたりいる。片方は男性の恋人(これもそう言っていいのかわからない。同棲しているが手すらつないでいないのだから。でも肉体的な接触の有無で関係性を定義することはできないよね)と、その恋人の妹がいる。それぞれが、その男性を軸に交差する。という話。田舎の風景描写と柑橘系の香りを纏いながらも、田舎特有の大きな事件や刺激のある生活ではなく、静かに、重く暗く動く。なのに不思議と警戒に読めてしまう不思議な小説だった。
この話の女性の片方は、自らの女性性を否定していた。胸を潰し、髪を短く切り、一人称も”俺”にしている。そして妹は「兄ちゃんのすごくきれいな彼女」として女性を見ている。そんなちぐはぐな設定だった。

この女性と妹、勿論恋人と兄である男性それぞれが心に傷を抱えており、それがふと漏れ出して交わう。ただ、直接相手のことをどう思っている、という宣言は最後までなされないのだ。妹は女性に憧れ、女性は妹を慈しんでいるが、それは具体的にどういう感情なのかは明かされず読者の方に投げ出されている。それが良い。隠遁な田舎の空気が曝け出さないまま終える展開に説得力を持たせ、独特の読後感があった。こういう空気感と構成が合致した話は心に刺さる。

 

もうひとつは「常」氏の「十三番街のカレイドスコープ

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これは大学生の主人公が十二番街までしかない町の十三番街に誘われるところから始まる。明らかに人の世のものではない世界の怪しい描写をいきなりブチ込む。そこから、人外に憑かれた姉妹の不思議な昔話とうまくなじめない大学生活と二つの時系列を交差する。

最初の人外世界の描写に足を踏み入れた主人公と読者を重ね合わせた上で、主人公もまた”普通ではない”ことを少しずつ明かしていく。病弱な姉、部活という狭い世界に精神を揺さぶられる学生時代の記憶。青さと猛々しさが生臭くて、誰でも少なからずあるであろう学生時代・10代の後悔のような痛い思い出のようなものを掘り返す。そしてその事件の後に姉はふっと消えてしまう……という、まさに御伽噺。

話そのもののネタバレはともかく、これの作品はこういう現代御伽噺が好きという事のほかに、まーあわかりやすい姉妹という禁断の関係に堂々と触れている点。

こういう禁断の関係に触れるのは王道で、というのも身分違い、近親という障害そのものが盛り上げるためのシステムになるわけだが、この話は姉妹という関係は障害でも何でもない。これにビビりました。

いやこんなにスルーすると思わないじゃん。むしろ関係ないね!と触れずに書き連ねている所に感動した。そうだよ。生まれ、血のつながり、そんなものは関係ないのだ。

 

で、何が言いたいの?

百合作品に少し触れたわけですが結論百合って性別は差でも障害でもなく、ただ人を好きになるという点を肉体的な、物理的な側面を排した形態で描かれている作品の一つの極致

という結論に達しました。

男女ならではの挿れるもの受け入れるもの、男性同士でも同様。でも女性同士なら?受け口だけの器官は持て余す。そのいじらしさ、満たされなさを超えたところに描かれる心と心のつながりか愛なのだ、百合というジャンルなのだ、という結論になりました。

酔っているのでこれ以上語れませんが第2回pixiv百合文芸コンテストが開催されています。

https://www.pixiv.net/novel/contest/yuribungei2

 

マジで応募するか、応援してくれよな。ではまた。